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6月 いつか、すべての子供たちに~「ティーチ・フォー・アメリカ」とそこで私が学んだこと

(著者)ウェンディ・コップ(英治出版)*09年4月20日第1版第1刷
<読んだ経緯>
・アイボーサンのメーリングリストでアメリカのNPO「ティーチ・フォー・アメリカ」(TFA)が、今年の学生就職先人気ランキング1位になったとの記事が紹介されていたので再読
・全米トップクラスの大学の卒業生を2年間雇用し、全国の貧しい地域にある学校に派遣するTFAの創設者の、大学4年時(88年、卒論サマリーがほぼ設立趣意書!)から創立10周年頃までの物語
 *TFAのミッション
  短期;全米400の大学から選び抜かれた優秀な若者を学力レベルの低い公立学校に送り込み、国語と数学という2本柱の学力を上げること
  長期;TFA教師を経験した若者たちが任期を終えた後、教育界やビジネス界、政治や行政など様々な役職に就きアメリカの教育インフラを根本から変革すること
・ケネディ大統領が創設した「ピース・コープ」をモデルとし、また組織のネイミングからしても、著者が最初からビッグな展開を図っており(そのための苦労も半端なものではなかったが)、それがここまで成功し今回のランキング1位にもなった原因であることは明らかだが、本書は、そういう大きな成功たんとしてだけでなく、平凡で年齢も行った私のような者にも、大いに勉強になる素晴らしい本だと思う(「現実は変えられる」「シンプルで具体的な目標がいかに多くの人々の力を引き出せるか」等々)。
・著者は、「アメリカでは、どこで生まれるかでその子供の人生の大半が決まってしまう」という巨大な現実を根本的に解決するため、最初からスケールの大きいTFAを構想した(しなければならなかった)が、教育に限らず大小同じような困難(現実)は、私たちの前にも必ずある訳で、私たち一人一人がそれを「(根本的でなくても)少しでもよくなるように」変えようとすることがとても大事なことだと思う。ここに書かれてあることはそのようなときに大いに励まされ、参考になる。

<「第1章卒業論文」~「第2章宇宙の法則を止める」>
・プリンストン大学4年生の著者が職業を決めるに当たってTFAを創設しようと決意するまで。「応募した会社がすべて不採用だったのには戸惑ったが、こうなったのはよい方向に進むためだと思うことにした」「最初から大規模に展開すべきだということはわかっていた。国中の最も優秀な新卒者に、他の魅力的な可能性を捨てて参加してもらうためには」
・卒業論文を基に提案書を作成し、主な企業のCEOや助成財団に何百通もの手紙を送り、電話をする中で、モービル石油やユニオンカーバイド、ロス・ペローなどから初年度に必要な経費250万ドル提供を受け、2500名の応募者の中から500名の派遣教師を選抜する。「あるアイデアが実現するとき、宇宙の法則が止まって道が作られるという。TFAの最初の1年はそんな状態だった」
・これは、アイデアの力強さ+著者たちの大胆・緻密さ(それとプリンストンブランドも)によるものだが、送りつけられた書面をCEOたちが読み、面談するというアメリカの組織の柔軟さ、奥深さにも驚く。それと、後で何回も出てくるが「チャレンジ助成金(その何倍かの金額を自前で集めることを条件に支給するお金)」というのが素晴らしい。
・ここでCEOらに指摘された懸念のうち、「しっかりしたマネジメント体制が必要」ということについては、その後著者が最も苦労し続けることとなるが、「教育改革には教師の質の向上(大学院教育など)こそが必要」とか「恵まれた立場にいる教師たちが自分探しをして去った後子供たちは捨てられたように感じるのではないか」という懸念に対しては、実績でもってその誤りを実証していく(←派遣教師の多様性に強くこだわったことが貢献。「コープ・メンバーの構成は、将来の(国の)リーダーシップのあり方を反映したものでなければならない」)

<「第3章理想だけでは不十分なとき」~「第4章新しいアイデア」~「第5章暗黒の年月」>
・著者(創業者)が常に資金集めに奔走しなければならない中、事業も開始。派遣教師の研修を行い、受け入れ先を募集し・・。そこで、教師の研修への不満、派遣先の不満、スタッフの亀裂などで組織崩壊の危機に陥る。
・資金も、「マチネ(中期)」になるともらえないものも多く困窮。「私の時間は全て2週間毎の賃金を支払うための20万ドルの調達に向けられた!」94年に官民共同の「コーポレーション・フォー・ナショナル・サービス」が設立され、連邦政府からの助成金を受けられるようになり一息。

<「第6章大きな決断」~「第7章トンネルの向こうに灯りが見えた」~「第8章上昇軌道」>
・「私たちが抱えていた最大の問題は、スタッフが批判的なフィードバックを受けると、それを「自分たちがだめな証拠」と受け取ってしまう、したがって、批判を受けないよう隠し立てなどするようになったこと」「エキスパートと非エキスパートを分ける特質は、知性でも努力でもなく「素直さ」であり常に学ぼうとする気持ちであることを組織に徹底」し、組織の建て直しに成功
・マネジメント能力を向上させるとともに、慢性的な資金不足を解消するため、原点に返ることとし、新しく始めた事業を廃止した。中には、派遣された教師を地域でサポートするスタッフの解雇も含む厳しいもの
・3年間の将来計画も立て新たな歩みを始めた95年、連邦政府の助成金の更新が怪しくなる。「私はワシントンに行って同団体のCEOを直接訪問しようと思ったが、「担当者以外にFAXを送ったりメッセージを残したら資金提供を受ける可能性は消える」という忠告を受けやめた」「(担当者は)組織崩壊のリミットの2日前になってようやく連絡をくれ、①派遣教師に対する奨学金受け取りに同意すること、②明日までに予算を100万ドル削減すること、という条件を提示してきた。①は連邦の助成要綱にあるものだが、TFAは有給で雇用しており不要のため申請していなかった(賃金に「奨学金」を上乗せすると派遣先の地元教師より優遇することになり問題もある)が、その分助成金を増やすので要綱どおりにするようにとのこと(必要ない助成を受け取れと言う親切さ!!)、②は無理難題」「私は怒りを飲み込み同意した」「その後私は復讐計画を練ったが、これは同団体の問題ではなく、ワシントンの数人の役人の問題とわかり、やめた。規則には従うが、コミュニケーションや行動をとらないことが私たちのような脆弱な組織にどのような影響を与えるかわからない人たちだ」
・「ここ何年かで学んだ恐らく最も重要なことは、有能な組織を懸命に作り上げることによってのみミッションを遂行できるということ」
・新たに「TFAウィーク」を開催し、派遣先学校で著名人やCEO等に授業をしてもらう。地域貢献になり、参加した著名人らによる助成金の支出にも貢献する、そんな循環ができてきた様子が生き生きと描かれる。

<「第9章TFAの評価」~「第10章ビジョンを実現する」~「第11章この先の10年」~「あとがき」>
・各地の派遣教師たちの奮闘、2年の派遣期間を終えた教師たちのその後の活躍ぶりが描かれる。それぞれの教師たちが創意工夫を凝らして子供たちの学力を飛躍的に上げ、同僚や地域にも影響を与えていることがよくわかる。
・驚かされるのは、アメリカにおける教育の分権性と現場権限の強さである。教育目標(「幼稚園児時代に読み書き能力を付けさせる」など)も各学校、クラスで決めることができる。目標設定過程や成果のオープン化がなされれば、これこそ教育のあるべき姿だと思う(教師個人の責任等にも結びつくが)
・「02年には14000人の新卒者が応募、イェール大は4年生の7%にまでなった」(「解説」では、08年次点では25000人の応募(ハーバードは9%)になり、3600人を採用したこと、15年には15000人の採用予定であることが記されている)「ローラ・ブッシュはファーストレディとして支援する5団体の一つにTFAを指名」
・「私を動かしているのは我が国に根強く存在する不平等に対する怒りだ。いつか、この国のすべての子供たちに、優れた教育を受ける機会が与えられますように」

<感想>
・奇跡のような物語だが、一人の人間の熱い想いから始まった現実だということに感動する。また、「自分たちにも回りの現実を変えられる(スケールは小さくても)」と思わせてくれる力がある。
・それにしても、「資金は助成や寄付でまかなう」と言う点が一貫しているところが凄い。「派遣先(学区)からお金をもらうことは全く考えなかった。それぞれの学区の支払い能力などに関係なくともに仕事を進めていく必要がある。ただ、その地域の個人から寄付を集めることは理にかなっている(から実施した)」結局、ミッションの内容により資金をどこから徴収するかというのが決まってくる(料金で賄うべきミッションもあるが、このミッションは違う)という当然のことからぶれなかっただけなのだろうと思う(だから成功した)が、実際には なかなか難しいことだと思う(だから中途半端で失敗することが多い)。
・以前読んだ「サンフランシスコ発・社会変革NPO」でもそうだった、アメリカの学生が「マイクロソフト」(当時)に行くかNPOに行くか悩むということがわかる本。「貧困大国アメリカ」のアメリカも、この本のアメリカもともに現実なのだろう。すごい国だ。
・最後に、本書でも行政に対する失望(希望も描かれているが)が結構描かれており胸が痛む。解説で取り上げられている例で、派遣後ロースクールに行く計画をやめてワシントン市教育監になった女性の「TFAでの経験が私に教えてくれたのは「全身全霊を捧げる一教師の存在」が教育全体を変えることができるということ。テニュア(終身地位保障)は教員の生活を保障するためにできたもので、子供たちのための制度ではありません。子供たちを優先するシステムを作らなければならない」という言葉は、行政に従事する者全てが胸に刻まないといけない言葉だと思う。以上

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2010年06月26日 | ソーシャルキャピタル、ガバナンス | こめんと 0件 | とらば 0件 | とっぷ

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