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8月 生物多様性とは何か

(著者)井田徹治(共同通信社編集委員、岩波新書)*10年6月18日第1刷発行
<読んだ経緯>
・日経の書評で、今年が国連生物多様性年であることと、この分野について自分がいかに無知であるかを知り、そこに紹介されていた本の中で最も読みやすそうな本書を選択
<概要>
・第1章生物が支える人の暮らし
 「鳥の生態系サービス(とその損失の影響);①種子散布(依存する種の絶滅や減少)②受粉(近親交配、着果率の減少)③腐肉の消費(病気の流行、望ましくない種の増加)④捕食(虫害増加、作物の減収、病気の蔓延)」「鳥に限らず、生物や生態系が人間にもたらしてくれる恩恵を科学者は生態系サービスと名付けた。①供給サービス②調節サービス(ハゲワシによる廃棄物処理など、最近は温暖化防止機能が注目)③基盤サービス(光合成など)④文化的サービス」「現在、生態系サービスや自然資本を経済的価値に換算しようと言う研究が盛んとなっている」「生態系サービスを評価し、それを守る努力に対価として支払われる仕組みを作れば自然破壊防止への大きなインセンティブになる」「重要なことは政策決定者にいかに長期的な視野を持たせることが出来るかということ」
・第2章生物史上最大の危機
 「現在は第6の大絶滅期といわれ、原因はいうまでもなく人間活動」「なぜ種を守るのか、将来人類に有用な医薬品の開発に必要になるかもしれないという実用的な理由もあるが、リペット仮説(空を飛んでいる飛行機から次々と鋲を抜いてゆくようなものだから)、運転手と乗客仮説(多くの種が依存し合って生きている)などが唱えられている」「生態系の維持に特に重要な種はキーストーン種と呼ばれる。食物連鎖の頂点に立つ捕食者であることが多く、その絶滅の影響は大きい」「生態系の変化は直線的に進むのではなく予測不可能な形で深刻化する恐れ」「生態系サービスは世界の貧困をさらに悪化させる」
 なお、ここでは、日本の「里山」の果たしてきた役割と危機に瀕している現状についても言及されているが、その中で、「これに里山という名を与えたのが・・四手井綱英さんである」とあった。
・第3章世界のホットスポットを歩く
 「ホットスポットとは、研究者グループが、人類が優先的に生物多様性保全の努力傾ける場所として選定した場所」「00年に25箇所、05年に9箇所追加、「日本」もホットスポット」「多くのホットスポットが発展途上国、地域紛争頻発地に存在し、危機に瀕している」
・第4章保護から再生へ、第5章利益を分け合う
 漁民たちが自ら海洋保護区を作り、ジンベエザメの海としてエコツーリズムに力を入れている「ベリーズ」やグリーン成長戦略で森林保護区の面積を広げている「スリナム」などの取り組みが紹介され、開発における「ノーネットロス」の義務づけや、生物多様性オフセット・クレジット市場の創設などが必要としている。
・最後に、ノーベル平和賞を受賞したマータイさんの「生物多様性を神話の世界から日常生活の中に持ってこなければならない。生物多様性は人間生活全てに関わっているのだから、全ての人がそのために何かできる」という言葉で結んでいる。
<感想>
・まさに初心者向けで、問題点等をコンパクトにまとめてある良書

2010年08月30日 | ソーシャルキャピタル、ガバナンス | こめんと 0件 | とらば 0件 | とっぷ

8月 ビッグイシューの挑戦

(著者)佐野章二(講談社)*10年6月3日第1刷発行
<読んだ経緯>
・発売の宣伝を見て即購入。社会起業のさきがけのようなビッグイシュー日本について、今までまとまった本が出ていなかったこと自体が信じられない。内容は期待どおりであった。
<概要>
・ビッグイシューはホームレスが販売する雑誌で、日本では月2回の発行、イギリス等からの配信記事と独自取材の記事から構成される、登録すると10冊を無料で支給される、定価300円で仕入値140円1冊で160円の利益となる。
・イギリス(ロンドン)発のビジネスモデルで1991年に「ザ・ボディショップ」創業者のゴードン・ロディックとジョン・バードが創業。「チャリティでなくビジネスを」が彼らの標語
・ビッグイシュー設立前と後でロンドンの犯罪件数に明らかな差。ロンドンから世界各都市に広がっていた。
・著者らがそれを日本で始めようとしたが、相談した専門家等は全て「成功するはずがない」と保証し、行政は「成功されたら困る(全国からホームレスが集まってしまう)」という態度
・ほぼ誰からも資金援助受けられないまま創業
・創業時のエピソード、①そもそも路上販売は許されるのか(→移動販売扱い)②その筋の人たちとの話し合い、③何十人も揃えようと思った販売者も当初は4人(発足までに何とか33人に)
・「編集方針は、(若者にとって住みやすくない社会における)若者のためのオピニオン誌、読者層は20代~30代前半を想定」「実際の購読者は30代、女性が多い(7割は女性)」
・販売者が守るべき8つの規範(すっかり有名になったビッグイシュー行動規範のこと)
・日本のホームレス事情
「公式のホームレス数は減り続けている、これはホームレスを各国に比べて狭く定義している(帰るべき家を持たない人ではなく、路上生活者)ためで、おかしな話だ」「人が路上に出るまで3つの段階(仕事を失う、家を失う、人との絆を失う)がある」「人はそう簡単にホームレスにならない。なるのはホープを失ったとき」「ホームレスから脱却する上で一番大事なのは人との絆を回復すること」
「08年以降若年(40代以下)ホームレスが急増。僕が自慢に思っていた日本のホームレス像(どんなに困っても犯罪には手は染めないなど)が揺らいできた。彼らは今までのおじさんホームレスとは明らかに違う」「そこで若年ホームレスにヒアリングをした。彼らの共通点は、家庭に何らかのトラブル、学校や職場でのいじめ、抑うつ状態、劣悪な職場環境、自己肯定感の低さ、一人を好む等」「日本のホームレス問題も英米化(自殺、クスリ、犯罪)」
・事業が軌道に乗る中、(有)ビッグイシュー(雑誌の編集、販売)に加え、NPOのビッグイシュー基金(自立応援、文化スポーツ応援、就職応援)を創設、ホームレス支援をより充実化。札幌では市民の力で冬場に地下鉄コンコースで販売できるようになった。また、リーマンショック後も基金への寄付は増加
・「これからのビッグイシュー;生きにくい社会を少しでも居心地のよい社会に、ビッグイシューのいらない社会に」
<感想>
・「居心地のよい社会」を作ろうとするトライ・アンド・エラーの姿勢に共感

2010年08月28日 | ソーシャルキャピタル、ガバナンス | こめんと 0件 | とらば 0件 | とっぷ

8月 生き方の不平等~お互いさまの社会に向けて

(著者)白波瀬佐和子(岩波新書)*10年5月20日第1刷発行
<読んだ経緯>
「最低所得保障」などと一緒に読んだ生活保障関係の本の1冊。不平等に関する各論点について、資料を引用しながら教科書的に丁寧に説明するとともに、社会というマクロなレベルでのお互い様の関係を制度化すること、お互い様の社会を目指すことを提言している。
<概要>
・第1章ゆりかごが決める人の一生~子どもたちの不平等
 →各種資料を引用して題名の内容を立証し、今の社会に必要とされる子育て支援として「子どもの貧困という再分配政策で展開すべきことと、子どもの福祉という普遍的福祉政策を展開すべきこと、この間のメリハリをつけることが必要」としている。勉強にはなるが結構一般的、網羅的で、阿部さんの「子どもの貧困」を読んだときのような「なるほど」感はない。
・第2章たまたまの勝ち組、たまたまの負け組~若者たちの格差
 →今問題になっている「年老いた親と同居する成人未婚者たち」なども含め各論点について丁寧に説明されている(「住居」に対する公的支援の重要性等、もっと議論されていいと思われることについても少し言及)
・第3章稼ぐ人、世話する人の分かれ道~女の働き方、男の働き方
 →M字カーブなどの各論点について説明し、「新たな少子化対策の古さ」として、「①子どもと家族を前面に出すことによって少子化問題の当事者を子どもと家族に限定してしまったこと、②「望ましい家族」「子育ての喜び」など個人の判断にゆだねるべき価値観を政策の文言として安易に投入し、対策としての目標と個々人の評価の問題が混同されていること」等を挙げている。確かに心しなければならない指摘だと思う。
・第4章、蓄積された不条理~高齢者たちの格差
 →少し前の格差論争の「原因」として問題となった、他世代よりも格差が大きいことなどについて詳しく説明
・終章、お互い様の社会に向けて
 →お互い様の関係を築くため、①お互い様の社会制度として再分配政策の見直し、中心的な制度として整備すること、②若年層、壮年の現役層を中心に社会が生活保障機能を提供することのメリットを実感してもらうこと、③就労を通した参加型社会の形成。以上  ???

2010年08月22日 | ソーシャルキャピタル、ガバナンス | こめんと 0件 | とらば 0件 | とっぷ

6月 いつか、すべての子供たちに~「ティーチ・フォー・アメリカ」とそこで私が学んだこと

(著者)ウェンディ・コップ(英治出版)*09年4月20日第1版第1刷
<読んだ経緯>
・アイボーサンのメーリングリストでアメリカのNPO「ティーチ・フォー・アメリカ」(TFA)が、今年の学生就職先人気ランキング1位になったとの記事が紹介されていたので再読
・全米トップクラスの大学の卒業生を2年間雇用し、全国の貧しい地域にある学校に派遣するTFAの創設者の、大学4年時(88年、卒論サマリーがほぼ設立趣意書!)から創立10周年頃までの物語
 *TFAのミッション
  短期;全米400の大学から選び抜かれた優秀な若者を学力レベルの低い公立学校に送り込み、国語と数学という2本柱の学力を上げること
  長期;TFA教師を経験した若者たちが任期を終えた後、教育界やビジネス界、政治や行政など様々な役職に就きアメリカの教育インフラを根本から変革すること
・ケネディ大統領が創設した「ピース・コープ」をモデルとし、また組織のネイミングからしても、著者が最初からビッグな展開を図っており(そのための苦労も半端なものではなかったが)、それがここまで成功し今回のランキング1位にもなった原因であることは明らかだが、本書は、そういう大きな成功たんとしてだけでなく、平凡で年齢も行った私のような者にも、大いに勉強になる素晴らしい本だと思う(「現実は変えられる」「シンプルで具体的な目標がいかに多くの人々の力を引き出せるか」等々)。
・著者は、「アメリカでは、どこで生まれるかでその子供の人生の大半が決まってしまう」という巨大な現実を根本的に解決するため、最初からスケールの大きいTFAを構想した(しなければならなかった)が、教育に限らず大小同じような困難(現実)は、私たちの前にも必ずある訳で、私たち一人一人がそれを「(根本的でなくても)少しでもよくなるように」変えようとすることがとても大事なことだと思う。ここに書かれてあることはそのようなときに大いに励まされ、参考になる。

<「第1章卒業論文」~「第2章宇宙の法則を止める」>
・プリンストン大学4年生の著者が職業を決めるに当たってTFAを創設しようと決意するまで。「応募した会社がすべて不採用だったのには戸惑ったが、こうなったのはよい方向に進むためだと思うことにした」「最初から大規模に展開すべきだということはわかっていた。国中の最も優秀な新卒者に、他の魅力的な可能性を捨てて参加してもらうためには」
・卒業論文を基に提案書を作成し、主な企業のCEOや助成財団に何百通もの手紙を送り、電話をする中で、モービル石油やユニオンカーバイド、ロス・ペローなどから初年度に必要な経費250万ドル提供を受け、2500名の応募者の中から500名の派遣教師を選抜する。「あるアイデアが実現するとき、宇宙の法則が止まって道が作られるという。TFAの最初の1年はそんな状態だった」
・これは、アイデアの力強さ+著者たちの大胆・緻密さ(それとプリンストンブランドも)によるものだが、送りつけられた書面をCEOたちが読み、面談するというアメリカの組織の柔軟さ、奥深さにも驚く。それと、後で何回も出てくるが「チャレンジ助成金(その何倍かの金額を自前で集めることを条件に支給するお金)」というのが素晴らしい。
・ここでCEOらに指摘された懸念のうち、「しっかりしたマネジメント体制が必要」ということについては、その後著者が最も苦労し続けることとなるが、「教育改革には教師の質の向上(大学院教育など)こそが必要」とか「恵まれた立場にいる教師たちが自分探しをして去った後子供たちは捨てられたように感じるのではないか」という懸念に対しては、実績でもってその誤りを実証していく(←派遣教師の多様性に強くこだわったことが貢献。「コープ・メンバーの構成は、将来の(国の)リーダーシップのあり方を反映したものでなければならない」)

<「第3章理想だけでは不十分なとき」~「第4章新しいアイデア」~「第5章暗黒の年月」>
・著者(創業者)が常に資金集めに奔走しなければならない中、事業も開始。派遣教師の研修を行い、受け入れ先を募集し・・。そこで、教師の研修への不満、派遣先の不満、スタッフの亀裂などで組織崩壊の危機に陥る。
・資金も、「マチネ(中期)」になるともらえないものも多く困窮。「私の時間は全て2週間毎の賃金を支払うための20万ドルの調達に向けられた!」94年に官民共同の「コーポレーション・フォー・ナショナル・サービス」が設立され、連邦政府からの助成金を受けられるようになり一息。

<「第6章大きな決断」~「第7章トンネルの向こうに灯りが見えた」~「第8章上昇軌道」>
・「私たちが抱えていた最大の問題は、スタッフが批判的なフィードバックを受けると、それを「自分たちがだめな証拠」と受け取ってしまう、したがって、批判を受けないよう隠し立てなどするようになったこと」「エキスパートと非エキスパートを分ける特質は、知性でも努力でもなく「素直さ」であり常に学ぼうとする気持ちであることを組織に徹底」し、組織の建て直しに成功
・マネジメント能力を向上させるとともに、慢性的な資金不足を解消するため、原点に返ることとし、新しく始めた事業を廃止した。中には、派遣された教師を地域でサポートするスタッフの解雇も含む厳しいもの
・3年間の将来計画も立て新たな歩みを始めた95年、連邦政府の助成金の更新が怪しくなる。「私はワシントンに行って同団体のCEOを直接訪問しようと思ったが、「担当者以外にFAXを送ったりメッセージを残したら資金提供を受ける可能性は消える」という忠告を受けやめた」「(担当者は)組織崩壊のリミットの2日前になってようやく連絡をくれ、①派遣教師に対する奨学金受け取りに同意すること、②明日までに予算を100万ドル削減すること、という条件を提示してきた。①は連邦の助成要綱にあるものだが、TFAは有給で雇用しており不要のため申請していなかった(賃金に「奨学金」を上乗せすると派遣先の地元教師より優遇することになり問題もある)が、その分助成金を増やすので要綱どおりにするようにとのこと(必要ない助成を受け取れと言う親切さ!!)、②は無理難題」「私は怒りを飲み込み同意した」「その後私は復讐計画を練ったが、これは同団体の問題ではなく、ワシントンの数人の役人の問題とわかり、やめた。規則には従うが、コミュニケーションや行動をとらないことが私たちのような脆弱な組織にどのような影響を与えるかわからない人たちだ」
・「ここ何年かで学んだ恐らく最も重要なことは、有能な組織を懸命に作り上げることによってのみミッションを遂行できるということ」
・新たに「TFAウィーク」を開催し、派遣先学校で著名人やCEO等に授業をしてもらう。地域貢献になり、参加した著名人らによる助成金の支出にも貢献する、そんな循環ができてきた様子が生き生きと描かれる。

<「第9章TFAの評価」~「第10章ビジョンを実現する」~「第11章この先の10年」~「あとがき」>
・各地の派遣教師たちの奮闘、2年の派遣期間を終えた教師たちのその後の活躍ぶりが描かれる。それぞれの教師たちが創意工夫を凝らして子供たちの学力を飛躍的に上げ、同僚や地域にも影響を与えていることがよくわかる。
・驚かされるのは、アメリカにおける教育の分権性と現場権限の強さである。教育目標(「幼稚園児時代に読み書き能力を付けさせる」など)も各学校、クラスで決めることができる。目標設定過程や成果のオープン化がなされれば、これこそ教育のあるべき姿だと思う(教師個人の責任等にも結びつくが)
・「02年には14000人の新卒者が応募、イェール大は4年生の7%にまでなった」(「解説」では、08年次点では25000人の応募(ハーバードは9%)になり、3600人を採用したこと、15年には15000人の採用予定であることが記されている)「ローラ・ブッシュはファーストレディとして支援する5団体の一つにTFAを指名」
・「私を動かしているのは我が国に根強く存在する不平等に対する怒りだ。いつか、この国のすべての子供たちに、優れた教育を受ける機会が与えられますように」

<感想>
・奇跡のような物語だが、一人の人間の熱い想いから始まった現実だということに感動する。また、「自分たちにも回りの現実を変えられる(スケールは小さくても)」と思わせてくれる力がある。
・それにしても、「資金は助成や寄付でまかなう」と言う点が一貫しているところが凄い。「派遣先(学区)からお金をもらうことは全く考えなかった。それぞれの学区の支払い能力などに関係なくともに仕事を進めていく必要がある。ただ、その地域の個人から寄付を集めることは理にかなっている(から実施した)」結局、ミッションの内容により資金をどこから徴収するかというのが決まってくる(料金で賄うべきミッションもあるが、このミッションは違う)という当然のことからぶれなかっただけなのだろうと思う(だから成功した)が、実際には なかなか難しいことだと思う(だから中途半端で失敗することが多い)。
・以前読んだ「サンフランシスコ発・社会変革NPO」でもそうだった、アメリカの学生が「マイクロソフト」(当時)に行くかNPOに行くか悩むということがわかる本。「貧困大国アメリカ」のアメリカも、この本のアメリカもともに現実なのだろう。すごい国だ。
・最後に、本書でも行政に対する失望(希望も描かれているが)が結構描かれており胸が痛む。解説で取り上げられている例で、派遣後ロースクールに行く計画をやめてワシントン市教育監になった女性の「TFAでの経験が私に教えてくれたのは「全身全霊を捧げる一教師の存在」が教育全体を変えることができるということ。テニュア(終身地位保障)は教員の生活を保障するためにできたもので、子供たちのための制度ではありません。子供たちを優先するシステムを作らなければならない」という言葉は、行政に従事する者全てが胸に刻まないといけない言葉だと思う。以上

2010年06月26日 | ソーシャルキャピタル、ガバナンス | こめんと 0件 | とらば 0件 | とっぷ

5月 <私>時代のデモクラシー

(著者)宇野重規(岩波新書)*10年4月20日第1刷
<読んだ経緯>
・「孤独なボーリング」や「生活保障」などを読む中で(1)今の時代に必要な福祉国家を構築していくには新しい形のソーシャルキャピタルを意識的に作っていかなければならない(2)しかし、人々が連帯感を持ちづらい現代社会でどうしたらそれが可能なのかについて考えさせられた。そんなときちょうど本書が発刊。「私」と「デモクラシー」を結びつける方法に示唆を得られるかと思い購入
・期待した事柄だけでなく、(地方分権の重要性に対する認識がないなど不満はあるが)政治や社会を分析する新しい考え方について多々学べる良書だった。
<はじめに>
・「この本は、<私>という視点からデモクラシーを考える本」「現代において<私>が<私>らしくあることはとても魅力的であると同時に、日々<私>らしくあることを求められるということはつらいこと」
・「近代の目標の一つは人々を縛り付けてきた伝統や人間関係から個人を解放することだったが、今や「ソーシャルスキル」一人一人の個人がスキル(技術)によって人間関係を作りだし維持していかなければならない時代、人と人とのつながりは個人にとっての財産(資本)となり、自覚的に関係を作らない限り人は孤独に陥らざるを得ない時代」
・「デモクラシーは<私>ではなく<私たち>の力によって生み出していくもの、今の時代<私たち>を形成するのは困難、全ての選択を個人に委ねてしまうことは、その負担を重くするだけでなく社会を意味づけ改革する点でも問題」
<第1章平等意識の変容>
・「現代を特徴づけるのはグローバルな平等化の波(政治的覚醒)、個人も国家も単に平等に扱われるだけでなく、オンリーワンであることを認めてもらいたい」
・「トクヴィルの平等論が問題の本質理解に役立つ。トクヴィルのいう平等化は、人々を隔てていた想像力の壁が崩れ、それにより改めて人々の間の平等・不平等をめぐる意識が覚醒すること、平等であることに誇りを感じる個人は、同時に平等でしかないことに不安を感じる、平等社会の個人にとって多数派に異を唱えることは容易ではない、多数の声に立ち向かうだけの根拠を自分の中に見いだせない、このような鋭敏かつ不安定な個人の、平等・不平等をめぐる意識の振幅が社会を揺るがすとトクヴィルは考えた」
・「「閉じた共同体的空間」(苅谷剛彦)「仕切られた生活保障」(宮本太郎)が解体・弱体化し不平等が可視化、「「代理としての子ども」意識の消失(佐藤俊樹)による不平等感が爆発」「不平等の是正には国民の社会的連帯の意識が不可欠だが、それは未成熟」「不平等は一人で受け止めていくしかないという思いが<私>の平等意識をますます刺激し、しかも、行き場のない不安へと誘う」「平等社会の個人の意識は否応なく「いま・この瞬間の平等」に集中していく」「このことは、長期的に考え、<私>の利益と<私たち>の利益が一致する可能性を考える(=正しく理解された自己利益)デモクラシーを困難にする」
<第2章新しい個人主義>
・「人々は、日々<私>を見つめ、絶えずチェックし、コントロールする、これができない人間は自己管理能力の欠如を非難される→常に自己啓発を求められる社会、オーディット文化(どんな人も機関もいたるところで説明責任を負わされる)の社会、セラピー文化の社会、ノーロングターム(長期思考はダメ)の社会、待つことができない社会」
<第3章浮遊する<私>と政治>
・「不満は私事化され、社会を変える力にはなっていない」「民意は見えにくく選挙の数だけ民意があり脈絡はない」
・「現代のデモクラシーは多数者支配ではなく、自分らしくありたいと思う一人一人の個人の声と向き合うこと、個別化し断片化した声をくみ上げ、そこに共通する地平を築くような高度の感度を持ったデモクラシーが求められている」
・「不安や不満が募っているにもかかわらず、それが適切に代議制デモクラシーの回路に接続されていない状況が続くと政治に対する絶望やシニズムが増大するとともに、たまった政治的情念のマグマが代議制の外に噴出場所を求める」
・「エクレシア(公的領域)とオイコス(私的領域)を繋ぐアゴラ(広場)の(再組織化の)重要性」
・「新しいナショナリズム参加者は、ある種の不安や空虚さを抱えながら、束の間の解放感を求めて「歴史という居場所」「日本という居場所」に集う普通の市民、従来の政治の言葉によっては表現回路を見いだせない人たちが希望を見いだした」「これは世界的傾向(パラノイア・ナショナリズム、「憂慮する市民」)、社会内部の「脅威」にも向かい分断や対立を固定化する。抵抗勢力、公務員、高齢者、若者などバッシングの対象は転々、自分がされないため誰かをバッシングという悪夢」「<私>の問題を<私たち>の問題へと媒介するデモクラシーの回路を取り戻すしかない」
<第4章<私>時代のデモクラシー~むすび>
・「ドラッガーが、日本にとって最大の問題は経済ではなく社会(=そこに暮らす諸個人にしかるべき位置と役割を与えるもの)だと言うことの意味」「社会は、承認(希望)という希少財を個人に分配するメカニズムであるが、グローバル化時代の国家は(自国が魅力的な投資先であることをアピールする「美観の管理人」機能が優先され)社会に積極的に介入しようとする意欲を欠く(ハージ)」
・「本書の主張は、(1)<私>は、<私>の実現のためにも社会を必要とするということ、(2)<私>の意識こそが歴史の発展を生み出すということ、(3)<私>意識の高まりがデモクラシーの活性化を求めるということ
<感想>
・大変勉強になる本だったが、(読み手の力量の問題もあるが)最後(「ではどうしていけばいいか」)になるにつれ、抽象的になってしまった感じがした。
・この役割は政治家などにかかっているということかもしれないが、私などは、上記の「アゴラ(広場)の再組織化」が最も重要だと思う(ソーシャルキャピタルも含めて)。その意味で、国政の役割を狭め、地方分権を進め、人々に「デモクラシーの見える範囲」を大幅に拡大し、そこへの参加、監視を進めることこそが、一番大切なことだと思う。その意味で、地方自治やNPO等の市民活動に対する言及がほとんどなかったことは大いに不満で、残念だ。
・著者は講談社PR雑誌「本」の今年4月号から「政治を哲学する」という連載を開始。こちらも勉強になりお勧め。

2010年05月30日 | ソーシャルキャピタル、ガバナンス | こめんと 0件 | とらば 0件 | とっぷ

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